表紙>はじめに>講演内容>質疑応答>反響に対して>資料請求先 【スライド 9/45】 作家側ができることは何か
まずひとつは、フィクションとノンフィクションの仕事をきっちり分けようということ。フィクションでは物語の面白さを追求するわけですが、専門家が読んでも間違いじゃないような配慮は最大限心がけよう。特に僕の小説には研究者がよく出てきますので、彼らに怒られないようにしようという配慮です。 ふたつめは、『パラサイト・イヴ』のようなフィクションを読んだ後で、「じゃあミトコンドリアというのは本当はどういうものなの?」という疑問が読者には出てくると思うんですね。実際そういう反響もある。そういう読者をノンフィクションにスムーズに移行させてあげることはできないか、というわけで、ノンフィクションの本のプロデュースをしようということなんです。ミトコンドリアの場合は『ミトコンドリアと生きる』という本を出しましたし、『BRAIN VALLEY』では『「神」に迫るサイエンス』という副読本を出しました。それから『八月の博物館』では、まだ本になっていないんですが、いまは亡き「feature」という雑誌で、海外のミュージアムをいろいろ探訪して学芸員に話を聞くという連載をしたわけです。 三つめですが、科学関係の仕事が来たらとにかく手を抜かないでやろう、と思ったんですね。ただ、これは少し失敗もありました。小説を角川書店でしか発表できない時期が長く続いて、しかも角川は長編書き下ろしを望んでいましたから、他社からやってくる仕事がノンフィクションやエッセイばかりになってしまったんです。その中には科学ものもかなり含まれていました。こういったノンフィクションの仕事に時間を取られてしまって、おかしな話ですが小説を書く時間がほとんどないという状況が続きました。小説を書くために作家になったはずなのに、なぜか作家になってから科学の仕事ばかりしているという状況になったわけですね。 もうひとつ、これは僕自身も忸怩たる思いですけれども、公務員をやりながら作家をやっていることを強く批判される方がごく一部いらっしゃいます。ですから大学にいるときは絶対に大学の仕事しかしない、うちに帰ってから作家の仕事をする、という区別を徹底させました。ただ、やはり精神的・肉体的負担が大きくて、いまは非常勤講師や兼任講師というかたちで大学の教育のほうには携わっております。 こうして、少しずつ身の回りの環境を整備してきました。そして最後に残った懸案事項が「SF」だということになります。 |
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