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2.【質疑応答】

(司会)
 素晴らしいご講演をいただきまして、今日ここに参加された皆さんはもう二度と「これはSFではないといってはいけない」とわかりました。そして、SFとのファーストコンタクトが無事に終了いたしましたので、これからは瀬名さんとの第二次、第三次のコンタクトを続けてください。時間がかなり押しておりますけれども、ここで質疑応答の時間に入らせていただきます。

(質問者1)
 あ、どうもいつもご本をありがとうございます。えー、最後のご提案なんですけれども、私も「あれもこれもSF」というのは大嫌いでして、その点では大森望さんのやり方は非常に反対なんですけれども。ただ、もうひとつ、本音はSFではないというよりも、非常に間違った物言いだと思って大嫌いなんですけれども、ただ、書評家としましては「このSFは駄目だ」ということを禁じられてしまうと、公正な書評にならないという気がしますので、そこだけは許していただきたいなと非常に思うんですけれども。

(瀬名)
 このSFは駄目だというのは、SF小説として駄目だということになるんですか?

(質問者1)
 僕、思うのはジャンル小説にはジャンル小説のルールがあって……。

(瀬名)
 はい、そうですね。

(質問者1)
 やはり、これはホラーとして傑作だとかですね、これはミステリーとして傑作だとかですね、これはSFとして傑作だとか、それぞれちゃんと枠が違う評価基準があってしかるべきだと思いますので、その反対として「これはSFとしては駄目でしょう」と。「これはミステリーとしては駄目でしょう」ということは、やはりきちんと書評家とか批評家の方にはいってもらいたいと思うわけです。その点はいかがでしょう。

(瀬名)
 ええ、僕もそれはそのとおりだと思います。例えば「SFオンライン」や「SFマガジン」、そういうSFと謳っている雑誌では、やはりSFの基準で評価するのが当然だと思うんです。ただ、そうではない媒体もありますよね。そちらのほうは、むしろもっと例えばミステリーとかサスペンスとかと並列的に評価していくことも、積極的にやってもいいかな、と思います。

(質問者1)
 一番、思うのは「これはSFではない」というのは、本当に皆、いっている人がいたら、ちょっと叱ってあげましょう。

(瀬名)
 ありがとうございます。ただ、読者の方も「SFオンライン」とか「SFマガジン」だけじゃなく、例えば「ミステリマガジン」とか「オール讀物」「週刊現代」とかの書評も同時に読んでほしいと僕は思いますけれどもね。SFだけの書評だと、やはりそれが絶対的評価になってしまう可能性があるので、いろんな書評を僕は読んでほしいなと個人的には思います。

(質問者1)
 あと、僕は思うのはSFの書評も人によって、例えば大森望さんの好きなSFとか中村融さんの好きなSFとかそれぞれあるわけなので、それを読者もはかりに、この人はこういう傾向なんだというふうにやはりちょっと考えてほしいなと。誰かのいうことを盲目的に信じたりとか、そのSFファンが一体となって何かをひとつの基準で生きているふうには思ってほしくないなと思います。

(瀬名)
 それはSFファンの方がもっとたくさんいったほうがいいと思いますね。

(質問者1)
 そうですね。それはやはりSFファン側がもうちょっとするべきことだと思いますね。

(瀬名)
 そうですね、はい。

(質問者2)
 先ほどのことで、ひとつだけ指摘を。スニーカー文庫や電撃文庫などのヤングアダルト系の読者、デュアル文庫のような戦略なんかでも、プロパーSFを読むようになっているかというと、現状ではそうじゃないのではないかと。たったひとつの実例ですが、友人の夫婦の子供、ゲーム、そしてやはり「電撃」「スニーカー」系列だけを読む。中学3年生になったのかな? デュアル文庫の関係で親の方は両方とも昔からのSFファンなんですが、プロパーSFの作家のほうを読むようになっています。また別の形でいうならば、僕自身、上遠野浩平さんという作家の存在をはじめて知りました。やはりそれなりに、数的にはどうかともかく確実に、現実問題としてやはり広がりが見えているという事だけは指摘させていただきたいです。

(瀬名)
 うーん、はい。たぶんそういう一人、二人の事例の裏には、もっと隠れてたくさんの方がいらっしゃるんだと思います。だから編集者自身もご存知なくても、実はそういう読者の方々はたくさんいるんだろうとは思います。やはりそうふうになっていきたいなと思いますね。僕自身もホラーを読みながら、「奇妙な味の小説」を経由して、元SF作家の方の本とか読んでいましたから、そういう意味では越境はたくさんあるといいなと思います。
(*註:ただ、やはり編集者にそういうケースを少しでも知らせてゆくことは必要。出版現場を励ます意味にもなる)

(質問者3)
 あの、大変素晴らしい講演をありがとうございました。それで言葉の端々から「自分はホラー作家である」という認識をなさっていて、ホラーをあえて買い支えたりとか、ホラーに対するジャンルの帰属意識を感じるんですが、SF作家、ご自分としてはSF作家だと思っていらっしゃいます?

(瀬名)
 僕はいまでも自分はホラー作家だと思っているんですよ。SF作家といわれて別に嫌ではないんですけれども、自分からSF作家とはいえないというところはありますね。うーん。

(質問者3)
 あの、さっきのSF冬の時代の問題からいけば、瀬名さんがSF作家だと名乗れば一気にSF。

(瀬名)
 うーん、でもね、例えば『パラサイト・イヴ』はホラー大賞を獲っているので、だから僕はホラーにも恩義があるんですよね。ですから、あれをSFと自分でいうことって出来ないですね。だから『BRAIN VALLEY』はSFといってもいいかもしれませんね、あれはSF大賞を頂いたので、あれは構わないです。実は、あれ最初、編集部ではホラー文庫に入れようという話だったんですけど、僕が「やめろ」といって、角川文庫にしてもらったんですね。「SF大賞を獲ったのにホラー文庫に入っているというのは、SFファンの人に失礼だ」と。だから「角川文庫で出せ」というふうにあれは強硬に自分でいいました。でもね、うーん。いま僕のところに小説を書いて下さいという編集者の方で、ホラーを書いて下さいという編集者の方は一人としていないのです。えー、8割くらいはたぶんSFを書いてくださいという依頼です。あとはまあ、瀬名さんに好きなのを書いて下さいということですけど、だから注文的にはSFが圧倒的に多いですね。

(質問者4)
 最近SFとかホラーの関連小説に瀬名さんの解説をよく見かけるんですが、あれも一部の戦略でしょうか?

(瀬名)
 僕個人が文庫解説をものすごく好きなので、自分でもやりたいということなんです。だから、ご依頼があれば引き受けているのですが、読者からは賛否両論でして、非常に良いといって下さる方もいれば、全然駄目だという方もいて、正直、僕は続けたほうがいいのかどうかよくわからないです。前に村山由佳さんの恋愛小説の解説を書いた時には、『きみのためにできること』という集英社文庫の本なんですけれども、これはうちの大学の女の子が読んで、「せっかく村山さんの本で感動していたのに、後で小難しい解説が書いてあって感動が薄れた」といわれて、僕はそのとき「もう止めようかな?」と思いましたけれども。

(会場から)
 あの解説は良かった。

(瀬名)
 ありがとうございます。まあ解説が単純に好きなのでやってしまうのですが、ただ非常に時間を取られるので、解説ばっかり書いていると小説が書けないですね。

(質問者4)
 でも、できるだけ続けてくれるとちょっと嬉しいです。

(瀬名)
 ありがとうございます。

(司会)
 以上で、質問のほうはもうよろしいでしょうか? では幕も降りてまいりましたので、大変長いようであっという間の時間でございましたけれど、瀬名秀明さんにもう一度大きな拍手を。



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