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5)なぜSFとわかりあえないのか

 さて、こういう結果を踏まえて、ではどうしてSFが難しいと思われるのか、うまく内部と外部のコミュニケーションが取れないのか、ということを考えてみたいと思います。

【スライド 29/45】 SFの構造を考える


【スライド29】SFの構造を考える
【スライド29】SFの構造を考える

なぜSFとうまくコミュニケーションができないのかを考えた。
手がかりとしてSF論を読む。もっとも平易だった『思考する物語』をここで紹介したい。
「フレーム」と「スクリプト」という言葉を使って森下さんはSFの本質を示そうとしている。
 なぜSFファンじゃない人とSFファンはコミュニケーションがうまく出来ないんだろうと考えてみました。ここで参考にさせていただいたのは、森下一仁さんの『思考する物語』(東京創元社)というSF論の本です。僕にとっては非常にわかりやすくて面白い本でした。

 森下さんは、SFの本質というのは「センス・オブ・ワンダー」(SOW)にあるとまず考えていて、ではこのSOWというのがどのように生まれるのか、いろいろな哲学書を繙いてわかりやすく説明して下さっています。ここでキーワードが二つありまして、それが「フレーム」と「スクリプト」なんですね。







【スライド 30/45】 SFのセンス・オブ・ワンダーと「フレーム」


【スライド30】SFのセンス・オブ・ワンダーと「フレーム」
【スライド30】SFのセンス・オブ・ワンダーと「フレーム」
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 まずフレームから説明します。マーヴィン・ミンスキーがいっていることなんですが、簡単に言いますとフレームは「統合された知識」で、何かを「わかった」ときに成立する。「××は××である」という辞書的知識です。例えば「犬」というものをフレーム論理でいいますと、動物である、四本足である、大きさは……、といったような、犬を説明するいろいろなスロットがあって、そのネットワークが「犬」のフレームなんですね。頭の中に「犬」が浮かんだとき、そういうスロットがたくさんあらわれる。スロットのひとつひとつにまた枝分かれ構造があって、さらに詳しいスロットがぶら下がっている。そういう全体のフレーム構造がわかったときに、僕たちは「わかった」と思う、というのがフレーム理論ですね。
 森下さんの説によりますと、ファンタジーというのは、この「犬」のフレームにぶら下がっているスロットの一個が、なにか全然違うものに置き換えられた状態なんです。透明な犬だとか、全長30メートルの犬とか、そういう訳のわからないスロットが一個入る。それがファンタジーだというわけです。

 それに対してSFは、どこかのスロットが一個変わったとき、変化がそこだけで終わるのではなくて、変化が他のスロットにも影響を及ぼしてゆく。どんどんフレームの中で変換が起こっていって、最終的にはフレーム全体が再構築されてしまう。これがSOWで、SFの本質だということなんです。普通の「驚き」とは違うんですね。非常に面白い解釈だと僕は思いました。森下さんは次のように書いています。
「ファンタジーはあるフレームのスロットに“間違い”を導入したものであるが、その“間違い”の影響は他のフレームに及ばない。(中略)SFはひとつのフレームに逸脱が、他のフレームと関係している。影響が次々と広がり、もっとも大きなフレームである世界全体に及ぶ時、我々はセンス・オブ・ワンダーを感じる」
 僕はSFファンの人がいうSOWの感覚がこれまでよくわからなかったんです。今回のウェブアンケートの中にも、SFのイメージとしてSOWを挙げる方がいらっしゃいました。その方は僕の『パラサイト・イヴ』にはSOWを感じない、だから「SFじゃない」とおっしゃる。では、どうして僕とその方はSOWを共有できないんでしょうか。SFファンじゃない人がSFに取っつきにくいのは、このSOWがよくわからないのも大きな理由のひとつだと思うんです。



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