表紙>はじめに>講演内容>質疑応答>反響に対して>資料請求先 【スライド 27(2)/45】 文芸編集者インタビュー調査 【SFは本当に売れていないのか】 いくつか要点を絞ってお話しします。 まず、SFが本当に売れてないかどうかということを、ちゃんとした数字で出してきた編集者は一人としていらっしゃいませんでした。いろいろ聞き出してみると、角川ホラー文庫の最低ラインは2万部、徳間デュアル文庫の最低ラインも2万部、メディアワークスの電撃文庫の最低ラインは3万部ということで、SFもホラーも最低部数は変わらないんです。それなのに、ほとんどの編集者はホラーのほうが売れているという印象を持っている。 これはなぜかというと、ホラーには突出して売れている本があるからということなんですね。SF小説には10万部、20万部売れる本がいままでなかった。だから全体的に寂しげな雰囲気がする。しかもこれまでどこかで「SFは売れない」という言説を見たり聞いたりしたことがある。だからあまり深く考えもせずに、なんとなく「ああ、そうなのか、SFは売れないんだな……。じゃあ、やめておこう」という感じになっているわけです。SFが売れないという雰囲気は、まったく根拠のないものなのです。それを編集者自身がわかっていないんですね。 今日、「アンソロジーの世紀」というパネルディスカッションの企画がありましたが、河出書房新社の編集者さんが出ていらっしゃいましたね。ああいったように、「何かやりたい」と思う編集者が出てくれば、いくらでも状況は変わるんじゃないかと思います。 【ヤングアダルト作家をいかに取り込むか】 それからライトノベル(ヤングアダルト小説)について。一般の文芸編集者は、あまりヤングアダルト小説を読んでいないようです。そもそも興味がないという方もいますが、出版社内でヤングアダルトのレーベルがあった場合でも、そちらから作家を引っ張ってくることが難しいと指摘する方もいました。編集部の間で若干の確執があって、ヤングアダルトから一般文芸に作家を引っ張ってくることができない。自分で一般文芸を書きたいという作家ならともかく、こっちで書きませんかと編集者が声をかけるのは憚られるというわけですね。 こういった現状については、「規制緩和すべきだ」と考える方(講談社・唐木さん)もいらっしゃる一方、辛辣な意見をおっしゃる方もいました。いまSF系の文庫が採っている戦略は、例えば徳間デュアル文庫、ハルキ文庫ヌーベルSF、「SFマガジン」がそうですが、ヤングアダルト小説の書き手からSF好きな作家を引っ張ってきて書かせるというものですね。イラストレーターの方もそうです。そういう戦略についてどう思うかと何人かに質問してみたところ、例えば角川書店の吉良浩一さんは、そういうやり方は嫌いだとおっしゃっています。岩井志麻子さんや山本文緒さんのように全然違う世界観で小説を書くのなら面白いと思うけれども、似たような作品でちょっと年齢層を上げただけのものなら興味がない。そういう作家は大化けしないんじゃないか。それに、作家が大人向けのSFを書いても、ちゃんと読者がついてきてくれるか疑問だ。読んでくれないのだとしたらいやだな、というわけです。 これは若干狭い意見のような気もしますが、現状に即しているのかもしれません。実際、ヤングアダルトでキャリアを積んできた作家が一般向けのレーベルでSFを書いたとき、やはり売上は落ちるのだそうです。作家にとっても経済的なメリットがない。あと、メディアワークスの方に「ハルキ文庫とかデュアル文庫などの戦略をどう思いますか?」と聞いてみたところ、「うーん」と悩んでからぼそりと、「自分たちの力で新人を発掘してほしい」といっておりました。まあ徳間SF新人賞や小松左京賞も創設されましたから、今後はそれぞれから新人が出てくるでしょう。あとはハヤカワが新人賞をつくることですね。 【アイドルとSFの関係】 講談社の唐木さんのいっていた話が非常に面白かったです。彼は大学時代、アイドル研究会に入っていたのだそうです。当時は「アイドル冬の時代」だったらしいんですが、研究会では話すことが山のようにあって困らなかった。つまりマニアはどんな時代でも喜べる。なぜなら、危機意識について語るのは楽しいからだというんですね。危機感を煽るのはエンターテインメントの王道で、だから冬の時代でもマニアは喜べる。それに、そもそもマニアじゃない人は冬の時代でも何も困ることがない。だから、そういうことで、アイドルファンとSFファンは似ているんじゃないかというわけです。 |