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3.【講演後の反響に対して】 8/8
【総括】
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瀬名秀明の小説に対する評価は、SFファンの間でも一様ではなく、ポジティヴな評価とネガティヴな評価が混在していたが、概ねポジティヴ評価のほうが多かった。 「SFファンの総意」などといったものはないという当たり前の事実が、改めて示された。
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しかし、野尻抱介氏によれば、一部の「ハードSFファン」の声が大きく、それが全体のバランスを崩しているようだ。なぜ「ハードSFファン」の声が大きいのか、SFファンはそのような状況をなぜ良しとしているのか、という疑問は残る。だが、声が大きい以上、マジョリティの発言だと外部から勘違いされやすいことは自覚してほしい。また、一部のSFファンには、いまだに「これはSFじゃない」という物言いをする人がいる。デメリットしか生じないので、一刻も早く止めるべきだ。総じていえば、いまのSFファンはSF内部に対して積極的に(しかも内部でしか通用しにくい言葉で)話しがちだが、そういった言葉が外部に伝わり、外部を困惑させていることに無自覚な感じがする。コミュニケーションのあり方に気をつけるべきだ。
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編集者はSFに限らずさまざまなジャンルの小説にもっと親しむべきだ。 「 SF冬の時代」 「SFが売れない」という言説が一人歩きして、実際にほとんど出版されなくなったのは、編集者の勉強不足が原因だと断言できる。さまざまなジャンル小説が豊かに発展することは、とりもなおさず文芸全体の発展に繋がるのである。いまの高校生・大学生の本好きは、ぜひ編集者を目指してほしい。そして編集業界を変えていってほしい。
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瀬名秀明はさらに仕事の質を向上させるよう努力してゆかなければならない。SFからの反応だけにこだわる必要はなく、またSF読者だけを気にする必要もないと思うが、SFを蔑ろにしたり無視したりしてはならない。ただ、瀬名が何をしてもSF(狭義のSF)は結局変わらないのではないかという絶望的な予感がすることも確かであり、今後どのように接するべきか、まだ気持ちの整理がつきかねている。ともあれ、面白い本をこれからも書いてゆくこと、そして面白い本が世の中に出る状況を作り上げてゆくことに、これからも全力を注ぎたい。
最後に、評論家・精神科医の風野春樹氏のウェブ日記( 2001 年 5 月 16 日
付)を紹介したい。非常にバランスの取れた指摘だと感じた。そしてこれを読んで、このような真っ当な意見とこれまで出会う機会がほとんどなかったことに、改めて気づかされたのである。
「ジャンルにこだわる」というのは確かに弊害も多いのだけど、一方では読書の参考として(あくまで参考として)有効なこともあると思います。たとえば、佐藤正午の『Y』が SFとして評価されている書評を見なかったら、おそらく私のアンテナには引っかからず、手に取ることはなかっただろうし。
だから、ジャンル分けに問題があるのではなく、あくまで「○○というジャンルは嫌いだから読みません」とか「これは○○じゃない」とかいう偏狭な態度(どっちも偏狭さにおいては似たり寄ったりだと思う)に問題があるのではないか、と。
「日本人は嫌いだからあなたとは話しません」とか「お前は非国民だ」とか言われたらイヤでしょ。
「SFは難しくてつまらない」のではなく、単に「難しくてつまらないSFがある」というだけでしょう。まあ、「SFは嫌いだから読まない」という人がいても、私はただ「偏狭だなあ」と思うだけで、無理にSFを布教しようなんて思いませんが(それが恋人とかなら、自分の好きなものをなんとかしてわかってもらいたいと思うだろうけど)
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(http://member.nifty.ne.jp/windyfield/diary0105b.html#16 )
SFとのファースト・コンタクトは、少なくとも私にとって、非常に有益だった。これからSFに対してどのように行動すべきか、どのようにSFとコンタクトを続けてゆくべきか、という点については、まだ確たる答が出ない。しかしエンターテインメント小説に対してどのように関わってゆくか、ということについては、少しヒントが得られたような気がする。少しずつ考えをまとめながら、今後も進んでゆきたいと思う。
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